2021.11.06
日程:2021年11月6日(土)~7日(日)
会場:オンライン
環境思想と人権の問題を語ろう!
形態:座談会(話題提供者数名を指定)
司会:澤佳成・穴見慎一
世界各地で人権の蹂躙が止みません。その目を国内に向ければ 、 5年前に起きた相模原「やまゆり園」での障碍者殺傷事件 、「いのちよりカネ」の東京五輪2020、そして名古屋の入管施設で起きた「ウィシュマ・サンダマリさんの死亡事件」など、そのどれもが日本・国民の人権意識の低さを暴露するものです。今年6月には改正国民投票法が成立し、改憲の現実が見えてきたわけですが、かように人権を理解できていない日本・国民にまともな改憲ができるとは到底思えません。環境問題との関係で言えば、7 月の「熱海の土石流」は、産廃行政の無責任が招いた人災の可能性もあり、日常的に近隣住民の人権が守られていなかった問題ともいえるでしょう。この点は、リニア新幹線のトンネル工事に伴う残土が行き場を失い 、谷あいに仮置きされている現状とも重なります。「アシオ」や「ミナマタ」の公害問題は 言うに及ばず、「フクシマ」も正に人権問題であり、今また汚染水処理問題に揺れています。これらは「環境正義」の視点から環境思想でも取り上げられてきましたが、今回はその射程を人権、及び日本国憲法にまで広げ、来るべき改憲の日をにらみながら、環境思想と人権の問題を大いに語り合いましょう。
2020 年 3 月に世界保健機関(WHO)が、新型コロナウィルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を宣言してから、すでに 1 年以上の期間が経過した。感染症予防のワクチン接種が進められている国もあるが、依然としてパンデミックからの出口を見通せるまでには至っておらず、コロナ禍は、人びとの健康と生命だけでなく、世界各国の社会・経済・政治に大きな負荷をかけ続けている。
新型コロナのパンデミックは、感染拡大の抑制と社会経済の維持の両立をはかるという困難な問題にいかにして対処するかという課題をほぼ例外なく世界各国の政府に同時的に突きつけることになった。こうした事態のなかであらためて浮き彫りになったことは、おおよそ1980年代以降40年にわたって世界を席巻してきた新自由主義が、各国の社会経済を脆弱化させ政治を劣化させてきたことである。端的に言えば、コロナ禍は、新自由主義が世界各国にもたらした矛盾と困難を一挙に激烈な形で顕在化させたのである。
新自由主義は、社会保障や公共サービスにたいする公的責任を後退させ、医療・公衆衛生分野において市場化や公的支出の削減を推し進めることで、未知の感染症の拡大にたいする対応力を各国政府から失わせてきた。2008 年の金融危機以後、厳しい緊縮策によって医療・公衆衛生予算の削減を強制されたスペインやイタリアといった国で当初とりわけ深刻な感染拡大と医療崩壊が起きたことは、偶然ではなく新自由主義がもたらした帰結として理解されなければならない。また、新自由主義は、各国で労働市場の規制緩和を推し進めることで、雇用の不安定化と劣悪化を招いてきたが、コロナ禍はそうした雇用格差を拡大しより深刻化させている。日本でも、コロナ禍による経済活動の停滞のなかで雇止めや休業手当の不払い、収入減少などの形でしわ寄せを最も被っているのは非正規労働者(そのなかでも特に女性)である。そして、コロナ禍で顕在化した格差の拡大・貧困の深刻化は、一時的なものにとどまらず、ポストコロナの社会にも影響を及ぼしていくことが懸念される。
新型コロナは社会・経済・政治のほぼ全面にわたって危機を引き起こしているが、その危機のなかにあって注目されるべきことは、かなり早い段階から「ポストコロナ」や「アフターコロナ」を冠してコロナ後の社会のあり方を展望する議論が生起していることであろう。新型コロナ危機のなかで既存の社会の脆弱性が明らかとなったことで、社会はもとの姿に戻ればよいのではなく、社会は変わらなければならないという感覚が広く共有されるようになっている。その意味で、現在私たちは歴史的な分岐点に立たされていると言って過言ではない。
ただ、言うまでもなく今後の社会が進むべき方向について社会的な合意が形成されているわけではない。記憶に新しいところでは、2008 年にリーマンショックを契機に世界が金融危機に陥った際には、新自由主義のもとで形成された金融主導型資本主義の矛盾が認識され、新自由主義の「破綻」が宣告されたにもかかわらず、現実にはその後各国で進行したのは緊縮策という名の新自由主義の強化策であった。今回の新型コロナ危機でも、日本ではデジタル化をてこに、オンライン診療の解禁、マイナンバーの義務化、教育のデジタル化など、まさに参事便乗型の改革を一気呵成に進めようとする動きが見え隠れしている。金融危機にせよ、新型コロナ危機にせよ、新自由主義がもたらした矛盾と困難の深刻化と顕在化がそのまま新自由主義からの転換と脱却につながるわけではないのである。
コロナ禍を克服するなかで、新自由主義に対抗する社会の方向性を打ち出し、オルタナティブな社会のビジョンを描き出すことが今まさに求められている。そのためには、コロナ禍のなかであらわとなった私たちの社会のあり様を根本に立ち返って見つめなおし、私たちの生と労働を脅かし壊すものは何であり、それを支えているものは何なのかをあらためて問うことが必要であろう。
一年以上にわたる新型コロナの経験は、私たちの生命と日常生活を支えているものは何かという問いをはからずも浮かび上がらせることになった。各国で人びとの移動が制限され経済活動が抑制されるなかで、「キーワーカー」や「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる労働者たちが担う役割が可視化され、これらの労働こそが社会を成り立たせる必要不可欠な労働であることが認識されるようになっている。しかし、D・グレーバーが「ブルシットジョブ現象」と名づけたように、新自由主義の下では社会的には無意味で労働者にとってもやり甲斐を感じられない労働が増殖し、そうした労働に高い報酬が与えられる一方で、社会にとって必要な労働ほど低賃金・低処遇であるというきわめて歪んだ労働と経済のあり方が形成されてきた。新型コロナのなかでも、そうした歪んだ状況の根本的な是正がなされることはなく、特に医療や介護、保育に従事する労働者の待遇の悪さと人員不足が危機への対応自体に影を落としている。
私たちの生命と日常生活を支えるエッセンシャルワークには、食料品などの生活必需品の生産と流通、電気・ガス・水道・通信などの社会インフラから、医療・介護・保育・教育などの社会サービス、行政・交通・警察・消防などの公務労働を含む幅広い分野が含まれる。イギリスでは、こうした生活の基盤をなす経済を「FoundationalEconomy」という概念でとらえ、金融や IT・ハイテク分野に偏重した現在の経済構造を問い直す動きが出てきている。こうした視点は、新自由主義の下で自明視されてきた「経済成長」のあり方や「労働」への評価に根本的な疑問を投げかけ、新自由主義を乗り越える方向性につながる可能性がある。
今大会のシンポジウムでは、人間の共同生活を支える必要不可欠な社会的基盤や本質的な活動とは何かという視点から、コロナ禍という「危機」を克服していくなかで何が維持されるべきであり、何が刷新されるべきなのかを問うてみたい。パネリストとして、反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸大作さん、北海学園大学教授の川村雅則さん、横浜市立大学名誉教授の中西新太郎さんをお迎えして、コロナ禍のなかで 顕在化した社会の矛盾と困難をふまえて、その克服の可能性と方向性をさぐっていく。
瀬戸大作さんには、困窮者支援活動の現場から見えてくる社会の現状と今後の課題についてお話しいただき、川村雅則さんには、この間の改革によって公務労働がこうむってきた変化と現状についてお話しいただくとともに、コロナ禍の経験をふまえて公務労働が果たすべき役割について考察していただく。中西新太郎さんには、コロナ禍で顕在化した窮状の背景にある新自由主義とそれに対抗する視点についてご報告いただく。
「個別最適化」社会への対抗視点を探る | 中西新太郎(横浜市立大名誉教授) |
地方自治体における非正規公務員・公共民間労働問題 | 川村雅則(北海学園大) |
コロナ禍における困窮者支援活動の現状と課題 | 瀬戸大作(反貧困ネットワーク事務局長) |
G. ジンメルにおける「物質の言語」――『貨幣の哲学』を再展開するために | 田村豪(神戸大学大学院人文学研究科博士課程後期) | 【報告要旨】 |
後期シェリングにおける「宗教社会主義」の萌芽――『神話の哲学への歴史的序論』第23講義の読解と注釈 | 中村徳仁(京都大学人間・環境学研究科博士課程) | 【報告要旨】 |
マルクスにおける個体Individuumと個別者Einzelne――社会思想史的な系譜 | 竹内真澄(桃山学院大学) | 【報告要旨】 |
気候変動に対峙する社会変革の方向性――脱資本主義の未来像―― | 丸山啓史(京都教育大学) | 【報告要旨】 |
①「若手研究者」企画
担当:小谷英生(群馬大)
②「教育問題・フードバンクについて」
担当:蓑輪明子(名城大学)
公害事件等から考える「政策と科学」の蜜月問題――硬直と歪みからの解放へ | 尾崎寛直(東京経済大) |
科学・技術・イノベーション――イノベーションに関する重層的階層性とシステム性からの検討 | 佐野正博(明治大) |
フィリピンにおける民主主義の革新 | 原民樹(千葉商科大学・非) |
市民政治の育てかた――新潟の経験から | 佐々木寛(新潟国際情報大) |
「人間の問い」が示すもの――真下信一とマルクス・ガブリエル | 赤石憲昭(日本福祉大) |
自己解釈する動物と真理――チャールズ・テイラーとマルクス・ガブリエル | 坪光生雄(一橋大・院) |
日程:2024年10月26日(土)~27日(日)会場:東洋大学白山キャンパス6号館 第47回 総会・研究大会 プログラム集(全体版) ※今年度は対面参加のみとなります。(シンポジウムのみ、後日映像配信の予定です)※参加者 […]
シンポジウム「戦争を原理的に否定する論理」/分科会「ケアを問う」「スポーツ振興と都市(再)開発を考えるー京都府立植物園・北山エリアの開発を事例として」「フランクフルト学派の現在」
シンポジウム「グローバル新自由主義の支配・統治構造の揺らぎと亀裂」/分科会「反新自由主義の教育運動・教育学」「新自由主義下の福祉政策の批判的検討」「社会的加速と実在論」